国産み ~其の参~

古事記に限らず、神話というものはかなりエロチックな表現が随所に出てきます。

このシーンは、日本で一番最初に行われた性行為の記録です。

「みとのまぐわい」という儀式がこのシーンですが、

なんとも美しい描写だと、わたくしは思っています。


イザナミさまは「ああ、なんていいおとこでしょう」、

イザナキさまは「ああ、なんていいおんななんだ」

と、お互いを褒め称えています。


しかし、ここで、イザナキさまは

「女性から先に声をかけるのはよくない」と言われましたが、

でも、お二人はそのまま続けられました。


ですが、イザナキさまの懸念が当たったのか、

最初に産まれたのは「水蛭子」と言って、

手足と骨のない子でした。

この子は葦で作った舟にのせて、流されました。

次の子も淡島といって、泡のような不完全な島でした。



※古事記の原文にはこうあります。

爾伊邪那岐命詔「然者、吾與汝行廻逢是天之御柱而、

爲美斗能麻具波比此七字以音。」

如此之期、乃詔「汝者自右廻逢、我者自左廻逢。」

約竟廻時、伊邪那美命、先言「阿那邇夜志愛上袁登古袁。此十字以音、下效此。」

後伊邪那岐命言「阿那邇夜志愛上袁登賣袁。」各言竟之後、

告其妹曰「女人先言、不良。」雖然、久美度邇此四字以音興而生子、

水蛭子、此子者入葦船而流去。次生淡嶋、是亦不入子之例。


※現代語訳

そこでイザナキは

「それなら、私とあなたはこの天の御柱を回って出会い、男女の交わりをしよう」

と仰せになった。

このように約束されて、そこで「あなたは右から回りなさい。私は左から回って会いましょう」

と仰せになり、約束の通りに廻るとイザナミが先に

「あなたはなんてすばらしい男なのでしょう」といい、

つぎにイザナキが「あなたはなんてすばらしい女なのでしょう」と仰せになった。

それぞれ言い終わった後、イザナキはイザナミに

「女が先に言うのは良くないことだ」と仰せになった。

しかし男女の交わりをして子を生んだが水蛭子(ひるこ)で不具の子であった。

この子は葦の船に乗せて流した。

つぎに淡島を生んだがこの子も子の数には入れなかった。

さてさて、この話にもたくさんの大事なポイントがあります。

まず、先に女性の方から声をかけたという点です。

これは、次の章で詳しく書きますが、

このとき、イザナキさまは、女性から先に声をかけるのはいけないのではと

指摘をされていますが、それでもお二人はまぐわうことをやめませんでした。

この点だけ、チェックしておきます。


次に最初に産まれた「水蛭子(ひるこ)」について触れておきます。

古事記にはこの後も美しいシーンと共に、悲しいシーン、

残酷なシーン、汚いシーンがたくさん出てきます。


国産みの最初の子は捨てられました。

実はこういう風習はよく日本の歴史の中にも見られます。

例えば、豊臣秀吉は念願の子を授かったときに

その子に「お捨て」(捨松)と名付けています。

また、この古事記が書かれたころは、大陸より儒教が入ってきており、

その夫婦関係の在り方についての言及が用いられたという見方がされています。

ただ、この「ヒルコ」は、その後、どうなったかというと、

「恵比寿さま」になったと言われています。

摂津国の西宮神社は、このヒルコを祀ったとされていて、

その祭神は「恵比寿様」です。

古来、漂流者は福をもたらす「客人神」として祀る習慣がありました。

古事記は神代のことを書かれていますが、

一方で書いた年代は飛鳥~奈良時代です。

その当時の風習や、物の考え方、

そして国家観や歴史観が、様々な箇所に垣間見ることができるのも

この書物の面白いところです。

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