イザナミさまと火の誕生

イザナキさまとイザナミさまの「神産み」の最後は悲しいものでした。

「神産み~其の弐~」で書きましたように、イザナミさまはカグツチさま(火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ;加具土命)をお産みになった際に、女陰にやけどをしてしまい、それが元で神避りあそばされます。

このことが意味することは一体なんなのでしょうか?


いくつかの論点があります。


古代、火を扱うには、火を起こすことを行ってきました。その際に使用するのが「火きり臼」と「火きり杵」を使った発火法です。臼は女性、杵は男性に見たてられ、男女の混合を表しています。

火の神の誕生はその行為の示唆を如実に表わしているものと言われています。


また「火」は、すべてのものを燃えつくしてしまう恐ろしいもので、その脅威は母も神をも関係ないという警告であるともいえます。


ここで疑問があります。「神の死」はあるのでしょうか?

この観点は、その後の古事記や、古事記自体の世界観を考えていくとよくわかります。

しかし、この段階でいえることはひとつ。

この国産み、神産みの冒頭にもあるように、イザナミさま、イザナキさまは、「天つ国の神様」ですが、「中つ国」におりてきておられます。

つまり、本来おふたかたの住むべき場所ではありません。ここは大きなポイントです。わたくし個人の記紀研究でももっとも大事にしている視点です。

なのでこの「死」は致し方ない結果です。

また、別の考え方ではこの死は「肉体」の死を意味します。

「神話の神様」に出てきた始めの方の神様をみてもわかるように、神とは実態より概念。つまり、肉体というより霊魂です。

それが証拠にイザナミさまは火傷の病床にあって、苦しんでいる間にも、人間の暮らしのためにかなり重要な神様を作られています。

嘔吐から、 金属・鉱石・製鉄・金属加工品といった金物関係の神様、脱糞から陶器・土の神様、そして尿からは水や食物に関連する神様を。

最後にこういう生きていく上で大切な神を作られたというのも、イザナミさまの死と大きく係わっているのでしょう?


さらに、火は「文明の象徴」だといわれています。

人間界が文明を手にいれることの恐ろしさ(火に対する畏敬の念)と、文明を手に入れることによって失うこともたくさんあるという警告でもあります。

「古事記」が書かれた頃、渡来人により多くの新しい文明と出会っておりました。

いや、それだけではありません。

彼らが持ち込んだ高度な文化は国家政権の成立要因にもあたしい観点と、多大なる影響を与えており、それこそが国家の存立に係わる重要な部分だったことは間違いなく、この古事記にも警告として書かれたという考えができると思います。


「古事記」にはこのように色々な要素が含まれおり、そのひとつひとつが古代史を紐解くヒントになっています。

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