アマテラスさまとスサノオさま ~其の弐~<誓約>

イザナキさまに追放されたスサノオさまは行くところがなく、母のいる「根の堅州国」に行こうと思い、最後に姉神のアマテラスさまにお別れを言おうと高天原に上がって行こうとしました。ところが、アマテラスさまはスサノオさまの意図を分からず、弟神がこの高天原も征服するのではないかと思い、スサノオさまを撃退するために戦の準備を致します。それを見たスサノオさまは、身の潔白を表すために、誓約(ウケヒ)を提案します。


(現代語訳)

こうして天の安河をはさんで誓約をした。まずアマテラスがスサノオの持つ十握の剣をもらい受け、三つに折って、天の真名井で振り清め、よくかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、多紀理毘売命(タキリビメ)、またの名は奥津嶋比売命(オキツシマヒメ)という。次に市寸嶋比売命(イチキシマヒメ)、またの名は狭依毘売命(サヨリビメ)という。次に多岐都比売命(タキツヒメ)。


スサノオがアマテラスに、左の角髪に巻いてあった多くの勾玉を結んだ玉をもらい受け、天の真名井で振り清め、かみにかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ、以下アメノオシホミミ)である。

右の角髪に巻いてあった玉をもらい受け、かみにかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、天之菩比命(アメノホヒ)である。

また髪飾りに巻いてあった玉をもらい受け、かみにかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、天津日子根命(アマツヒコネ)である。

また左の手に巻いてあった玉をもらい受け、かみにかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、活津日子根命(イクツヒコネ)である。

また右の手に巻いてあった玉をもらい受け、かみにかんで吹き出した息吹の霧から現れた神の名は、熊野久須毘命(クマノクスビ)である。 あわせて五柱の神である。


そこでアマテラスはスサノオに「この後で生まれた五柱の男の子は、わたしの持っていた玉によって生まれた。したがって私の子です。先に生まれた三柱の女の子は、おまえの持っていた剣によって生まれた。したがっておまえの子です」と仰せになりお裁きになった。

そして、先に生まれた神、タキリビメは宗像神社の沖つ宮に鎮座している。つぎにイチキシマヒメは宗像神社の中つ宮に鎮座している。つぎにタキツヒメは宗像神社の辺つ宮に鎮座している。

この3柱の神は宗像君等が祀っている3柱の大神である。


※まず、アマテラスさまがスサノオさまの持っている十拳剣(とつかのつるぎ)を受け取って噛み砕き、吹き出した息の霧から三柱の女神(宗像三女神)がお生まれになられました。この女神は宗像大社に祀られています。

次に、スサノオさまが、アマテラスさまの「八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠」を受け取って噛み砕き、吹き出された息の霧から五柱の男神が生まれた。

そして、後に生まれた5柱の子の中で、アメノホヒの子の建比良鳥命は出雲国造、武蔵国造、上菟上国造、下菟上国造、伊自牟国造、対馬県直、遠江国造等の祖である。 

つぎに、アマツヒコネは凡川内国造、額田部湯坐連、茨木国造、大和田中直、山城国造、馬来田国造、道尻岐閇国造、周芳国造、大和淹知国造、高市県主、蒲生稲寸、三枝部造等の祖である。


そこでスサノオはアマテラスに「私の心は清く、明るいので私の生んだ子はたおやかな女の子だったのです。このことから申せば当然、私が勝ったのです」といって、勝ちに乗じて、アマテラスの作る田の畦を壊し、その溝を埋め、大嘗を行う御殿に糞をまき散らした。

しかし、アマテラスはそれを咎めずに「糞のようなものは、わが弟が酔って吐いたへどでしょう。田の畦を壊し、その溝を埋めたのは田を作り直そうとわが弟がしたのでしょう」と仰せになり、善いほうに言い直そうとしたが、その乱暴な行いはやまず、ひどくなるばかりだった。



※そもそも「誓約」とはなんでしょうか?

誓約とは、「〇〇をして、こうになれば潔白、こうなれば邪心あり」というよに、予め決めたとおりの結果が現れるかどうかで吉凶を判断する占いの一種。この誓約は古事記にたくさん出てきます。

例えば、「潔白であれば、この放った矢は外れる。邪心ありなら矢が当たって死ぬ。」というようなものです。

ところが、誓約が終わると、アマテラスさまは「後に生まれた五柱の男の子は、私のものから生まれたので私の子です。先に生まれた三柱の女の子は、あなたのものから生まれたので、あなたの子です。」と言いました。

それで、誓約の結果はどうなったかというと、誓約は通常、こうなったら潔白でこうなったら邪心あり・・・というように、事前に取り決めがされますが、このアマテラスさまとスサノオのさま誓約には、なぜかなにも取り決めがなされませんでしたがこれは謎です。

スサノオさまは「私の心が明るく清らかなので、たおやかな女の子が生まれたのです。だから私の勝ちだ~!!!」

と一人で勝手に勝利宣言をしてしまいます。結果がどうであれスサノオさまが勝ったことにするつもりだったというのがアマテラスさまの弟神への恩情だったとしか思えません。

というもの、スサノオさまは勝ちに乗じては高天原で益々狼藉三昧を始めたのですが、ことごとく庇っておられます。

ところで、この誓約に関しては謎が多いので、この部分はまた、別の記事で解説いたします。

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