塩盈珠と塩乾珠

神代の最終章にあたる、この「海幸山幸」の話を、途中で春の「参拝紀行」で遮ってしまいましたことをまずはお詫びします。

改めて、しきり直しということで、この、ニニギさまの御子神たちの話に戻りたいと思います。


前回まではこちら「山幸彦と海幸彦」をご参照ください。


そうでした!


ホヲリさまは前回の最後で、トヨタマビメさまと運命の出会いをされたのでしたね。

そんないい場面で、約1か月も放置してしまいました。


改めまして、お詫び申し上げます。



(現代語訳)

そこでトヨタマビメは不思議なことだと思い、出てみるや、すぐに一目惚れして、心を通じ合わされた。

そしてその父に「わが宮の門のところにりっぱな人がいます」と仰せになった。

そこでワタツミが自ら出て、その男を見て「この人は天津日高の御子で虚空津日高という方である」といって、すぐに宮殿の中に連れて入った。


そして海驢の皮を敷物として幾重にも敷き、またその上に絹を幾重にも敷いて、その上にホヲリを座らせて、台の上に様々なものを乗せた御馳走をさしあげ、すぐに娘のトヨタマビメと結婚させた。


そして三年間その国にお住みになった。



※山幸彦である火遠理命(ホヲリ)さまは、海の神の娘と結婚することにより、海の神の霊力を持つことになったというのが、この話の大きなポイントになります。



(現代語訳)

そこでホヲリはその最初のことを思い出して大きな溜息をされた。

そこでトヨタマビメはその溜息を聞き、父に

「三年お住みになっていますが、いつもは溜息をつくことが無いのに今夜は大きな溜息をつかれました。

なにかわけがあるのでしょうか」

と申し上げた。


するとその父の大神はその婿に

「今朝わが娘が語るのには

『三年お住みになっていますが、いつもは溜息をつくことが無いのに今夜は大きな溜息をつかれました』

と言っておりました。

何かわけがあるのでしょうか。

またあなたがここに来られた理由は何でしょうか」

とおたずねになった。


そこでその大神に、兄が釣り針を失ったことを責め立てた様子をくわしく語った。

そこでワタツミは大小すべての魚を呼び集め、

「この中に釣り針を取った魚がいるか」

とおたずねになった。

すると多くの魚たちが

「このごろ、赤鯛がのどになにか刺さって、物を食べることができないと悩んでおりました。

きっとこれを取ったのでしょう」

と申し上げた。


そこで赤鯛の喉を調べてみると釣り針があった。


すぐに取り出して洗い清め、ホヲリに奉ったときに、ワタツミが教えて言うには、

「この釣り針をあなたの兄に返すとき、

『この釣り針は心がふさぐ釣り針、気持ちが落ち着かない釣り針、貧乏になる釣り針、愚かになる釣り針』

ととなえて、後ろ向きに渡しなさい。


そして兄が高いところに田を作ったならば、あなたは下に田を作りなさい。

そうしたならば、わたしが水を支配していますから三年で必ず兄は貧しくなるでしょう。


もしそうなったことを恨んで攻めてきたなら、塩盈珠(シオミツタマ)を出して溺れさせ、

もし苦しんで許しを乞うたなら塩乾珠(シホフルタマ)を出して生かしてやり、

こうして悩まし、苦しめてやりなさい」

といわれて、塩盈珠と塩乾珠のあわせて二つを授けた。



※「後ろ向きに渡す」

つまり、後ろ手に渡すということで、呪いをかけています。

これは、「普段とは逆の作法」ということで呪術です。

これまでも、黄泉の国から帰ったイザナキさまの「剣の後ろ手」

出雲の国譲りの際の事代主神の「天の逆手」がありましたね。


(現代語訳)

そしてすぐに、すべての鰐鮫を呼び集めて

「いま、天津日高の御子の虚空津日高が上の国へ出発しようとしている。

だれが幾日で、お送りして帰って来ることができるか」

とおたずねになった。


そこでそれぞれが身の丈のままに日を限って申し上げた中で、一尋の鰐が

「わたしは一日で送って帰ってくることが出来ます」

と言った。


そこでこの一尋の鰐に

「それではおまえがお送り申し上げなさい。

ただし海の中を渡るとき、恐い思いをさせてはいけません」

とつげて、すぐにその鰐の頸にホヲリを乗せて送り出した。

そこで約束通り鰐鮫は一日の内にお送り申し上げた。


その鰐を返そうとするとき、佩いていた細い小刀を外してその頸に付けて返した。

そこでその一尋の鰐はいまでも佐比持神(サヒモチ)というのである。



(現代語訳)

こういうわけでホヲリは海神が教えたとおりにその釣り針をお返しになった。


そこでそれから後、兄はだんだん貧しくなり、さらに荒々しい心を起こして攻めてきた。


攻めてきたときは塩盈珠を出して溺れさせ、

助けを乞うてきたならば塩乾珠を出して救い、

こうして悩まし苦しめたときに、兄は頭を下げて

「わたしはいまより後は、あなたの昼夜の守護人となってお仕えしましょう」

と言った。


そこでいまに至るまでホデリの子孫の隼人は、その溺れたときの様々な仕草を演じて天皇にお仕えしているのである。



※弟が兄に勝つ。

これは実は古事記の大きなポイントでもあります。

この部分に関しては、別の記事で解説させて頂きたいと思います。


さて、これで、ニニギさま三兄弟の内、一番下の火遠理命(ホヲリ)さまが後継となられました。


いよいよ次回は、古事記神代、最後の話になります。



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